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改正育児介護休業法の実務対応ポイント

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2025.11.16

育児休業取得率は男性もどんどん伸び、令和6年度雇用均等基本調査では40.5%に達しています。育児休業が当たり前の社会に突入しています。2025年の改正育児・介護休業法では、企業に求められる対応がさらに細分化され、人事労務の運用体制を見直す必要があります。本記事では、社労士視点で「企業がいま取り組むべき実務」をわかりやすく解説します。就業規則の改定ポイントから、制度説明義務の強化、育休取得を促進する体制づくりまで、押さえておきたい対策をまとめました。自社のリスク回避と従業員支援の両立にお役立てください。

改正育児介護休業法の概要

改正の背景と企業への影響

近年、育児・介護を理由とした離職者の増加が社会課題となっており、その対策として育児介護休業法の改正が段階的に進められています。特に少子化対策として男性の育児休業取得率向上が強く求められ、企業側の働きかけや制度周知の強化が重視されるようになりました。また、介護離職は年間10万人規模とされ、今後ますます企業にとって深刻な人材流出リスクになります。こうした社会的な背景を踏まえ、企業には育児・介護の両立支援に対する積極的な体制整備が求められています。今回の改正は単なる制度変更ではなく、企業のガバナンス・人事戦略の見直しにつながる重要なテーマといえます。

押さえるべき主な改正ポイント


改正の中心となるのは、従業員への制度周知・意向確認の強化、取得を阻害しない職場環境の整備義務、そして育休取得率公表の対象拡大などです。特に男性育休に関しては、企業が積極的に情報提供を行い、取得希望をヒアリングする体制が求められます。また、育休中の働き方や復職後のキャリア支援についても明文化が進んでおり、就業規則や育休規程をアップデートする必要があります。介護分野でも同様に、家族の介護が必要となった際の柔軟な働き方を確保し、従業員が離職せず働き続けられる職場づくりが求められています。企業はこれらの改正点を体系的に理解し、実務対応へ落とし込むことが重要です。

育児休業に関する企業の実務対応

制度周知・意向確認の運用見直し

改正では、従業員から妊娠・出産の申出があった場合に、企業は育児休業制度の説明と取得意向の確認を行う義務があります。実務では、説明内容を文書化し、説明日・確認日を記録する仕組みが必要です。また、男性従業員に対しても同様の対応が求められるため、管理職向けの研修やチェックリストを整備しておくと運用がスムーズになります。さらに、制度説明の際には、分割取得や産後パパ育休など複雑化した制度をわかりやすく案内することが重要です。誤案内や説明不足はトラブルの元となるため、企業内部での統一ルールづくりと情報共有が不可欠です。

就業規則・社内フローの改善点

育児休業制度の改正は就業規則の変更を伴うことが多く、企業は最新の法改正に沿った規程整備が必要です。特に、産後パパ育休の取り扱い、分割取得回数、育休中の就労可否、復職支援の内容など、細部の条文が実務運用に直結します。また、申請フローや提出書類の整備、育休中の連絡方法の明確化など、規程と実務が一致しているか確認することも欠かせません。従業員の理解を促すために、育休ガイドブックや社内FAQを作成する企業も増えています。社内フロー全体を見直し、現場と人事が連携しやすい仕組みを設計することがスムーズな取得と復帰につながります。

介護休業制度の最新対応

介護と仕事の両立支援の重要性

高齢化の進行に伴い、従業員が家族の介護を理由に離職するケースが増えています。企業にとって介護離職は、大切な中核人材の流出につながるため、早期の対策が不可欠です。介護休業は最大93日取得できますが、現実的には介護の長期化が課題であり、短時間勤務・時差勤務・在宅勤務の導入が効果的です。また、従業員が介護の初期段階で相談できる体制を整えることも重要です。介護は突然始まることが多く、タイミングを逃すと負担が急増します。改正法に合わせ、介護休業と介護支援措置を無理なく利用できる仕組みを整えることが企業の責任となっています。

企業が行うべき介護支援措置

介護休業制度に加え、介護と仕事の両立を支援するため、企業は複数の措置を講じる必要があります。例えば、介護の状況に応じて働き方を柔軟に変更できる短時間勤務制度や、テレワーク制度の整備が挙げられます。また、介護サービスに関する情報提供や、相談窓口の設置も効果的です。介護は個々の状況が異なるため、画一的な制度では対応しきれない場合があります。従業員が必要なタイミングで制度を利用できるよう、人事担当者や社労士と連携した支援体制の構築が求められます。企業の積極的な取り組みは、従業員満足度と定着率の向上にもつながります。

従業員とのコミュニケーション体制

情報提供・相談体制の整備

法改正に対応するためには、制度を整えるだけでなく、従業員が利用しやすいコミュニケーション体制の構築が不可欠です。まず、制度内容をわかりやすく周知するために、社内ポータルやパンフレットの活用が効果的です。また、育児・介護に関する相談窓口を明確にし、従業員が気軽に相談できる環境を整えることが必要です。上司への相談がしにくい場合もあるので、人事部門や外部専門家のサポートを組み合わせると安心感が高まります。特に管理職は制度理解が不十分だとトラブルの原因になるため、定期的な研修や事例共有を行うことで、現場とのコミュニケーションの質が向上します。

育児・介護と働き方の柔軟化

育児・介護と仕事を両立するためには、働き方そのものの柔軟化が不可欠です。テレワークやフレックスタイム制度の導入はもちろん、時短勤務やシフト調整の柔軟運用も企業の対応力として求められます。特に育児期間中は急な発熱対応などが発生しやすいため、突発休にも対応できる体制が重要です。また、介護では通院付き添いなどが必要になるケースも多く、休暇制度と時間単位・半日単位の休暇の活用が効果を発揮します。働き方の柔軟化を進めることで、従業員は安心して仕事を続けることができ、企業としても人材定着の向上につながります。

実務対応チェックリスト

企業が直ちに確認すべき項目

改正に対応するため、企業がまず確認すべき項目は以下の通りです。①就業規則が最新法令に沿っているか、②制度周知の手順が明文化されているか、③管理職への教育が行われているか、④育児・介護に関する相談窓口が整備されているか、⑤育休中・介護中の従業員との連絡手順が確立しているか、などです。これらはトラブル防止の基本事項であり、放置すると法令違反や従業員との紛争につながります。また、制度を整えるだけでは不十分で、運用面のチェックも重要です。実際にフローが機能しているかを確認し、必要に応じて改善することで、安定した運用が可能になります。

社労士が推奨する運用改善のステップ

社労士として推奨する改善ステップは、①現状把握、②制度整備、③運用設計、④社内研修、⑤定期的な見直しの5段階です。まず、自社の制度や実際の運用状況を正確に把握し、課題を明確にします。その上で、法改正に対応した規程整備を行い、フローを細部まで設計します。次に、管理職や人事担当者への研修で制度理解を深め、現場との連携を強化します。そして、運用後は定期的に運用状況を確認し、改善点を洗い出すことが重要です。このサイクルを継続することで、育児・介護と仕事の両立支援が企業文化として根付き、離職防止・人材定着にも大きく寄与します。

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